アミロイドーシス
はじめに
脳神経内科/リウマチ・膠原病内科では、以前よりアミロイドーシスの診断や治療に関する相談に対応して参りましたが、オンラインセカンドオピニオン外来でも相談に対応しております。
アミロイドーシスとは
アミロイドーシスは、「アミロイド」と呼ばれる異常な蛋白質が体の中に沈着することにより、様々な症状を引き起こす病気です。それぞれ、神経に沈着すると足の先から始まるしびれ(末梢神経障害)、自律神経に沈着すると便通異常や立ちくらみ、心臓に沈着すると足のむくみや動いた際の息切れ(心不全)や動悸(不整脈)、消化管に沈着すると慢性下痢や吸収不良、腎臓に沈着すると足のむくみや尿の泡立ち(ネフローゼ症候群)、手首の関節に沈着すると手のしびれ(手根管症候群)、などの症状を引き起こします。
アミロイドーシスの種類
「アミロイド」になる異常な蛋白質は、1種類だけではありません。体の中にある何種類もの蛋白質が、アミロイドの「もと」になる可能性があります。そしてアミロイドの「もと」になる蛋白質(これを前駆蛋白と言います)の種類ごとに、アミロイドーシスの種類(病型)が決まっています。ここではたくさんあるアミロイドーシスの中から代表的なものを紹介します(表1)。
肝臓で作られるトランスサイレチン(TTR)という蛋白質は、生まれつき変異のある場合と変異のない場合があります。変異がある場合には遺伝性ATTRアミロイドーシスを引き起こし、変異のない場合には野生型ATTRアミロイドーシスを引き起こすことがあります。骨の中(骨髄)で作られる免疫グロブリンという蛋白質の一部分(軽鎖と呼ばれる部分)は、全身性ALアミロイドーシスを引き起こします。心臓にALアミロイドが沈着した場合には、特に生命予後が不良であることが知られています。野生型ATTRアミロイドーシスや全身性ALアミロイドーシスは、高齢になるほど発症しやすい病気であり、現在、社会の高齢化とともに患者さんの数が増えて注目されている病気です。
その他、比較的まれな種類のアミロイドーシスも数多くあります。免疫グロブリン軽鎖は組織の局所で産生されることもあり、その場合には、限局性ALアミロイドーシスを引き起こします。免疫グロブリンの重鎖を前駆蛋白とするAHアミロイドーシスと呼ばれる病型もあります。慢性関節リウマチなどの慢性炎症に伴って血液中で増加する血清アミロイドAという蛋白を前駆蛋白として発症する、AAアミロイドーシスという病型もあります。
アミロイドーシスの診断
アミロイドーシスを診断するためには、先ほど述べた様々な症状からアミロイドーシスの可能性を疑うことが重要です。疑った場合には、アミロイドが沈着していそうな臓器、組織の一部の採取(これを生検と呼びます)を行ったのち、その組織を顕微鏡で調べる検査を行います。Congo red(コンゴーレッド)染色を行ってそこにアミロイドが沈着していることを確認し、次にそれぞれのアミロイド蛋白が特異的に染色される抗体を用いた免疫染色という検査でどの種類のアミロイドなのかを突き止めて、沈着したアミロイド蛋白の種類を決定します(図1)。
出典「Abe, et al. Distribution of amyloidosis subtypes based on tissue biopsy site - Consecutive analysis of 729 patients at a single amyloidosis center in Japan. Pathol Int. 2021 Jan;71(1):70-79.」
ATTRアミロイドであった場合には遺伝子検査を追加したり、免疫染色で診断がつかない場合には、さらに質量分析という検査を追加したりして病型を確定させます(図2)。
アミロイドーシスの治療法
ATTRアミロイドーシスはトランスサイレチン蛋白を安定化させる薬を用いて治療します。これはトランスサイレチンタンパクが分解してアミロイドになることを防ぐことにより、病気の進行を抑える薬です。siRNAと呼ばれる、遺伝子レベルでトランスサイレチン蛋白の産生を抑える最先端の遺伝子治療も行われています。遺伝性ATTRアミロイドーシスに対しては、肝移植が行われる場合もあります。全身性ALアミロイドーシスに対しては、アミロイドのもとを作っている異常な細胞を破壊するための薬物治療(化学療法)を行います。限局性ALアミロイドーシスに対しては、局所のアミロイド腫瘤を外科的に摘除することもありますが、特に処置を必要とせず経過観察で良い場合も多くあります。AHアミロイドーシスはALアミロイドーシスと同様に化学療法で治療されますが、臓器予後や生命予後がALアミロイドーシスと異なるため、治療法の選択や治療強度が異なることがあります。AAアミロイドーシスに対しては原因となる慢性疾患に対する治療や、上昇した炎症反応を抑制する抗サイトカイン治療を行います。
アミロイドーシスの診断、診療の問題点
これまで述べてきましたように、アミロイドーシスには多くの種類があり、かつその種類(病型)ごとに予後や治療法が異なるため、正確な診断がきわめて重要です。しかしながら、特に頻度の高いATTRアミロイドーシスとALアミロイドーシスの区別に必要な市販の抗TTR抗体と抗軽鎖抗体は精度が低く、信頼できる免疫染色結果が得られないことが知られています。また先述の質量分析という検査は、免疫染色と比較すると特殊な設備や技術者を必要とし、国内で本検査を行うことができる施設は非常に限られています。また、本邦でアミロイドーシス診療に精通した医師はまだまだ不足しており、アミロイドーシスの病型診断がついたのちも、治療法や診療方針の選択で悩まれるケースが多くあります。
アミロイドーシスの オンラインセカンドオピニオン外来
そこで以前から私たちの科では、アミロイドーシスの診断や治療方針で悩まれる方からの相談を全国から受け付けておりました。私たちの科は精度の高い抗体を用いた免疫染色や質量分析によるアミロイドーシスの診断や、診断ののちのアミロイドーシスの治療、診療に数多くの経験と実績を持ち、これまでも通常の外来やセカンドオピニオン外来に多くの患者さまを紹介頂き、私たちの科の経験を利用して頂いておりました。この度、特に遠方にお住まいで当院への来院が困難な方や、新型コロナウイルス感染拡大の影響で来院が困難な方たちが、私たちの科へご相談頂く手段のひとつとしてオンラインセカンドオピニオン外来を開設致しました。アミロイドーシスの診断や診療方針について疑問や不安などお持ちで、私たちの科への相談を希望される際には、その手段の選択肢のひとつとしてご利用をご検討下さい。