子宮頸部多発嚢胞
≫オンラインセカンドオピニオンのページへ戻るはじめに
子宮頸部に多発する嚢胞を認める場合に、特に鑑別が重要となる以下の病変・疾患について解説していきます。
- 貯留嚢胞(ナボット嚢胞 NC: Nabothian Cyst)
- 分葉状頸管腺過形成(LEGH:Lobular Endocervical Glandular Hyperplasia)
- 胃型粘液性癌(GAS:GAStric type mucinous carcinoma), 最小偏倚腺癌(MDA: Minimal Deviation Adenocarcinoma)
子宮頸部には粘液(頸管粘液)を産生・分泌する頸管腺が存在しています(図1)。 頸管粘液は排卵期には精子の子宮内への侵入を助ける働きがあります。この頸管腺に形成される病変としては次のようなものがあります。
- 貯留嚢胞(ナボット嚢胞 NC: Nabothian Cyst):これは頸管腺の出口が閉塞することによって粘液が貯留した良性の病変で、子宮頸部に様々な形の嚢胞(水分がたまった部分)がみられます。
- 一般的な腺癌およびその前癌病変(上皮内腺癌):これらの病変はパピローマウイルス感染によって引き起こされます。
- 胃型粘液産生疾患:上記の疾患以外に、稀な疾患として、子宮頸管が通常の頸管粘液ではなく胃の産生する粘液(胃型粘液と言います)を分泌する性質を持つ疾患があり、これを胃型粘液産生疾患とよびます。この胃型粘液産生疾患には以下のタイプがあります。
- 分葉状頸管腺過形成(LEGH:Lobular Endocervical Glandular Hyperplasia):これは子宮頸管部に大小さまざまな嚢胞が形成され、その嚢胞から胃型の粘液が分泌されます。基本的に良性の疾患ですが、稀に下に述べる胃型腺癌に進展する可能性が示されています。
- 胃型粘液性癌(GAS:GAStric type mucinous carcinoma)、および最小偏倚腺癌(MDA: Minimal Deviation Adenocarcinoma)(一般的にMDAはGASの初期病変と考えられています):これらは腺癌に相当する悪性病変ですが、胃型の粘液を産生すること、またパピローマウイルス感染が関与しないという特徴があります。また放射線や抗癌剤が効きにくい厄介な癌でもあります。
これらのなかで、NC、LEGH、GASは子宮頸部に嚢胞を形成するため、超音波検査などで子宮頸部の嚢胞が見つかった場合は、これら疾患を鑑別して診断をする必要があります。
LEGH、GAS(MDA)の診断上の問題点
LEGHとGAS(MDA)は、どちらも通常の子宮頸がんと違いHPV感染と関連がなく、中性で低粘稠性の胃型粘液を多量に分泌することから、水っぽいおりもの(水様帯下)の症状を呈することが特徴的です[1, 2]。また、子宮頸部の高い(奥の)場所(内子宮口付近)に多発する嚢胞病変を形成することが多いといった、非常に似通った臨床像を呈します。さらにMDAでは細胞の形態異常が軽度であるので、LEGHとMDAは特に混同されやすく、両者を鑑別することが非常に難しいといった問題点があげられます[1]。またLEGHの好発年齢は40歳代ですが[1, 3, 4]、妊娠前に発症する患者もおり、妊孕能温存が大きな課題となります。さらに、LEGHは良性、GAS(MDA)は高悪性であり、生命予後に対する影響が全く異なることから、子宮摘出術前に両者を鑑別する重要性は非常に高いと考えられます。
子宮頸部多発嚢胞の臨床鑑別診断法
- MRI所見の特徴
私たちのこれまでの検討から、核磁気共鳴画像(MRI: Magnetic Resonance Imaging)のT2強調画像所見の特徴が明らかになってきました。LEGHでは、子宮頸部の高位(内子宮口付近)に病変が形成され、病変の中心部寄りに微小嚢胞の集簇~充実部を示す高信号領域、辺縁部に粗大嚢胞が配列するパターンが特徴的であり、コスモスの花にちなんで"コスモス(Cosmos)" パターン(またはサイン)と呼んでいます(図2)[1,2,5]。各病変のMRIの特徴パターンを図3に模式図で示します。すべての症例がこのパターン通りではありませんが、鑑別診断に有用な所見です。 - 臨床鑑別診断法
私たちは、これらMRI所見や頸管細胞診および胃型粘液検出を組み合わせ、NC、LEGHとGAS(MDA)などの腺癌の臨床鑑別診断法を提案しています[3,4]。本法で臨床鑑別診断された子宮頸部多発嚢胞175例の検討では、MDA・腺癌疑いは15例であり、そのうちMDA・GAS 9例を含む10例が実際に悪性腫瘍であり、残り5例はLEGHでした[4]。悪性症例はNC疑い76例、LEGH疑い84例には含まれておらず、本法は悪性の検出に有効と考えられました。一方、本法でLEGH疑いとして手術された21例中19例(90%)は病理診断もLEGHであり、高い診断一致率でした[4]。このように本臨床鑑別診断法は、手術に拠らず疾患を鑑別・推定するための有用な手段と考えられます。
臨床鑑別診断後の管理方針
臨床鑑別診断で、MDA・腺癌疑いの場合には、子宮頸部を円錐型に切り取る円錐切除術を行うなどして、確定診断を行い、基本的には子宮摘出術を勧めています。またNCは悪性化リスクもほとんどないことから、経過観察が勧められます。私たちがNC疑いと診断した全例で経過観察を行っていますが、診断が変化した症例はありませんでした。管理上問題となるのがLEGH疑いの場合です。LEGHは良性病変ですので、基本的には経過観察でよいと考えられますが、以下の2つの問題点があります。①:臨床鑑別診断法(図4)でLEGH疑いと診断された症例に、微小な病変のMDA症例が含まれている可能性がある [1]。②:LEGHがMDA・GASの前駆病変となる可能性がある [6]。このため、LEGH疑いに対して経過観察を行う場合には3~6か月毎に再検しています。これまで私たちはLEGH疑い69例に対し、平均57.1ケ月の経過観察を行いましたが、MDA発症例は4年以上経過観察した1例(1.4%)のみであり、数年以内での癌化は稀と考えられ、現時点ではLEGHに対し経過観察も許容されると考えております。一方で、癌化を疑う徴候としては、細胞診で異型腺細胞の出現、MRIでの病変の増大が重要であることが示唆されました。
オンラインセカンドオピニオン外来について
信州大学では、これまでのLEGHやMDAの研究を通して臨床鑑別診断法を提案しており、子宮頸部多発嚢胞の診断と管理についての豊富な経験を有しております。これまで、患者様をセカンドオピニオン外来や通常の外来にご紹介いただき、私達の経験をご利用いただいておりましたが、遠方の患者様は来院が困難であった上に、最近の新型コロナ禍により、さらに来院が困難な状況が生じております。
そこで私たちの診断・管理ノウハウをより多くの患者様にご利用いただき、その後の管理の一助としていただくために、オンラインセカンドオピニオン外来を開始することにいたしました。信州大学近隣の患者様には、これまで通り、対面でのセカンドオピニオン外来や通常診療を基本としますが、来院が困難な遠方の患者様に置かれましては、オンラインセカンドオピニオン外来(注1)のご利用をご検討ください。
注1:セカンドオピニオンは診察を伴いませんので診断を行うものではありません。お送りいただいた資料を基に院内で検討を行い、診断・管理方針についての意見・見解を述べさせていただきます。実際の管理方針は主治医とご相談いただくことになります。
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[1] Takatsu A, Shiozawa T, et al. Preoperative differential diagnosis of minimal deviation adenocarcinoma and lobular endocervical glandular hyperplasia of the uterine cervix: a multicenter study of clinicopathology and magnetic resonance imaging findings. Int J Gynecol Cancer. 2011;21:1287-96. doi: 10.1097/IGC.0b013e31821f746c.
[2] 宮本 強 , 塩沢 丹里. 水様帯下 (特集 外来診療マニュアル). 産婦人科の実際 59(11), 1698-1701, 2010年10月
[3] Ando H, Miyamoto T, et al. Usefulness of a management protocol for patients with cervical multicystic lesions: A retrospective analysis of 94 cases and the significance of GNAS mutation. J Obstet Gynaecol Res. 2016;42:1588-1598. doi: 10.1111/jog.13083.
[4] Kobara H, Miyamoto T, et al. Limited frequency of malignant change in lobular endocervical glandular hyperplasia. Int J Gynecol Cancer. 2020;30:1480-1487. doi: 10.1136/ijgc-2020-001612.
[5] 宮本 強 , 塩沢 丹里. 悪性腺腫とナボット嚢胞との鑑別. 臨床婦人科産科 64巻 6号 pp. 970-973(2010年06月)
[6] Takatsu A, Miyamoto T, et al. Clonality analysis suggests that STK11 gene mutations are involved in progression of lobular endocervical glandular hyperplasia (LEGH) to minimal deviation adenocarcinoma (MDA). Virchows Arch. 2013;462:645-51. doi: 10.1007/s00428-013-1417-1.